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笑ってコラえて 22歳 がんを患った花嫁

若年性大腸がんの解説、腹膜播種とは 解説

2020年2月5日に放送された日本テレビ「笑ってコラえての番組」で紹介された、22歳がんを患った花嫁。すごく感動的ないい話でした。

21歳で進行大腸癌に罹患した女性が花嫁になるまで、が非常に感動的に取り上げられていました。花嫁の方、旦那さん、共に凄くいい方でしたね。

進行大腸癌に罹患した人と接すると、なんとも言えない気持ちになります。時には無力感を感じることもありますが、医療によって、より良い方向に進めばいいなと思い、文章を書きます。

今回の番組を医師として治療内容は?病状は?予後は?みたいな目線で見てしまうので、冷たい文章になっていたり、どこか他人事のような文章になるかもしれません。不快に感じる方がおられたら申し訳ありません。

若年性大腸癌(21歳)

大腸癌は年々増加傾向にあります。日本は高齢社会なので当然ですが、それだけではありません。高齢化以外にも食の欧米化が原因とも言われています。

ちなみに、21歳でなぜ?と思うのは当然のことだと思います。もちろん稀ではありますが、全国的にはそれなりの数が20歳代で大腸癌に罹患しています。若年で発症する場合は遺伝が原因かもしれませんし、たまたま若年に発症してしまった稀なタイプなだけかもしれません。現に私も毎年、数人は20歳代の大腸癌の方を見ます。ですので、一般の方が思うよりも若年性大腸癌(はっきりした定義はないですが、30歳以下とします)は稀ではないと思っています。

診断

番組の冒頭、なんとなく初診の時点でエコーなどで異常がないので大腸癌が見逃された様な編集でしたが、年齢を考えると第一に疑わないのはある程度仕方がないかもしれません。実際、若年性大腸癌は進行癌で見つかることが多いです。そもそも若年者は確率が低いため、真っ先には疑われないです。しかも、若い人は忙しくて病院にもいかないし、体力があるので我慢できてしまいます。いよいよ我慢出来なくなって病院に来る頃には進行癌となっているケースが多いです。

大腸癌はエコーでは分かりにくく、大腸カメラをしない限り診断は出来ません。しかし、大腸カメラは半日がかりでやるので、忙しい若者はすぐには受けようとはならないと思います。よって、若年者の大腸癌は進行例が多くなります。

大腸癌の手術

のどかさんは手術は怖くて受けたくない、と悩んでいた様ですが旦那様に励まされて手術を受けることに決めたそうです。素晴らしい旦那様ですね。

手術は安全、と書いてしまうと混乱を招くかもしれません。しかしながら、誤解を恐れずにいうと、大腸癌の手術はそこまで危険とは言えないと思います。今の時代、80歳代の大腸癌手術はざらです。元気な方であれば90歳でも手術可能でしょう。消化器外科領域でいうと、食道がんや膵臓がん、肝臓がんの手術と比べたらまだまだ安全な方です。

もちろん、手術は怖いもの、というのは当然ですが、大腸に関しては怖くて手術を受けるのが嫌、というよりも、手術を受けないことの方が断然怖いことだと言えます。

大腸癌stageⅣは治るか?

のどかさんは腹膜播種のステージⅣでした。術前から、もし手術して播種があったら、と説明があった様です。執刀医は疑っていたと思います。大腸癌の腹膜播種は胃癌などと比べると腹膜播種は少ないので、術前からそこまでの説明をしていたとなると術前の画像で疑わしかったのでしょう。

のどかさんは担当医から治らない、延命、緩和目的の大腸癌、と説明を受けている様です。それでも前向きに生きておられます。インスタグラムの写真を見ても、ハツラツとしておられ、美しい写真でいっぱいです。

本当に治らないのか?と問われると、分からない、と個人的には言いたくなります。それは希望的観測、などといったことではなく、現に可能性はあると思います。

下のグラフを参照して下さい。

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腸癌治療ガイドライン 2019年版 (大腸癌研究会)

大腸癌は術後から5年間生存している場合は、完治していることがほとんどです。なので、治療成績は5年生存率で評価します。

上のグラフから分かるように、ステージⅣでも5年生存率が約20%ほどあります。20%が治ると考えると、全く諦める数字ではないと思います。ただし、ステージⅣの中でも腹膜播種は一番厄介です。大腸がんの腹膜播種はステージⅣのa,b,cでいうとⅣcとなり、治療成績も悪くなるので、担当医としてはやや厳しめの説明になっているのだと思います。ただ、大腸癌は抗癌剤の効き目が期待できます。私自身でも、腹膜播種の大腸癌で何年も生きておられ、治癒に至った人も見たことはあるので、可能性は0とは言えないと思います。膵臓がんや特殊な脳腫瘍などの極めて予後の悪いものとは違って、可能性は0ではないのです。 

抗癌剤治療

インスタグラムの写真を見ても、抗癌剤治療をしているとは思えないほど元気に見えるのではないでしょうか。髪の毛が抜ける、といった副作用もないようです。

インスタグラムを読んでいくと、抗がん剤の副作用が強くて、苦しんだ時期もあった様で、今は抗がん剤をやめて、今を万全の状態にする、という選択をしているのかもしれません。

治癒する可能性が低いなら、抗がん剤をやめて、副作用のない時間を目一杯楽しむという選択なのかもしれません。

腹膜播種は抗がん剤を使い続けても、播種病変が画像に写るとは限らないので、画像で写らなくても、癌がある、と考えざるを得ないのが現状です。よって、どこかで抗がん剤をやめないと、やめ時がない、ということにもなります。

それならば、いっそやめてみる、という選択はあると考えます。

しかも、始めたくなればいつでも再開できる。

抗がん剤のイメージとして、髪の毛が抜ける副作用のある抗癌剤もありますが、世間の人の抗癌剤のイメージは白血病のものだと思われます。入院して、白血球が下がって、髪の毛が抜けて、嘔吐して、、、というイメージ。

大腸癌の抗癌剤でもイリノテカンを使うと髪の毛は抜けます。最近では大腸癌の抗癌剤は外来で行うことが多くなっています。人にもよりますが、仕事をしながら、など。有害事象のコントロールや投与量を調整して、自分の生活を送りながら、癌の治療をすることがある程度は可能となっています。

大腸カメラ

番組と関係ない話になりますが、やはり大腸カメラはもっと積極的に受けても良いのでは?と思っています。40歳以上から大腸癌は急激に増え始めます。便潜血検査(便にミクロレベルで血が混じっていないかの検査)で陽性であれば大腸カメラが推奨されています。大腸癌はstageⅢまでなら手術で高い治癒率が望めます。それなりに早い時期に診断ができれば、きちんと治る病気でもあるはずです。

すごくいい番組でしたので、記事を書きました。