初当直
誰でも初めての経験、というものがあると思います。
数ある初めての経験の中で、初めての当直について書こうと思います。
私は初期研修は大学病院ではなく、一般の市中にある病院(市中病院)で行いました。
市中病院の夜間の救急外来というのは、その日の当番の研修医が当直で担当することが多いです。
私の研修先では1年目研修医、2年目研修医と若手常勤医(3年目から10年目までぐらい)の3人で救急外来を担当する仕組みでした。
初めての当直は前の日から楽しみにしていました。
ちゃんと対応できるか?
どんな病気の人が来るんだろうか?
他のスタッフとうまくやれるか?
重い病気を見逃したらどうしよう?
仕事で完徹ってどんな感じだろうか?
期待と不安が入り混じっていました。
初患者
初めての患者は自分で歩いてきた患者でした。
1つ上の先輩に、問診をするから後ろで見学するように指示されました。
数日前に私たちの歓迎会を開いてくれて打ち解けた先輩です。
もちろん、その時までは仕事モードの姿が想像できませんでした。
先輩はテキパキと問診し、身体診察をしたあと、薬を処方して帰宅許可を出しました。
患者さんが帰った後に、問診に必要な項目や、身体診察の手順を教えてくれました。
来年自分が同じことが出来るようになっていると思うとワクワクしました。
(私は楽観的なので、同じことができなかったらどうしよう、と不安になったりしませんでした)
もちろん、4月の研修医になりたての頃は、 医師と患者という立場でのコミュニケーション自体が未知の体験です。
要領よく、聞きたいことを聞く。
総合的に判断して、的確な指示を出す。
その診断が正しいかどうかは救急外来では厳密な意味で分からないので、明日の朝に必ず内科を受診するように指示することをその時に教えてくれました。
研修医に覚えたことというのは、結構印象に残っていることが多いです。
救急外来での問診の基礎はこの頃に学んだことを今も継続しています。
4月の時点のどの研修医も思うことだと思いますが、1つ上の先輩研修医がとても頼もしく感じられました。
初問診
初当直日は大量に患者が押し寄せた日でした。
いわゆるハズレ日と言われる日ですが、その時の私にとっては大当たりでした。
あらかじめ、必ず聞く問診内容を(今でもその時に決めた必ず問診するリストは確認するようにしている)確認して、いざ問診開始。
患者さんにも、初めての問診と思われないように、おどおどしないようにして。
一通り問診したあとは、後ろでついてくれていた一つ上の先輩が援護射撃のように足りないところや、もっと詳しい情報をうまく聞き出してくれます。
身体診察を行なって、必要な検査をオーダーして、必要な薬を処方して、翌日の受診を支持する、といった手順です。
救急車
この日の初当直は本当にたくさんの患者が押し寄せました。
意外だったのは、救急車運ばれる患者さんのほとんどが、救急車を呼ぶ必要のない軽症患者ということでした。
- 腰痛で数日前から動けない人(夜に救急で来なくても)
- 急性アルコール中毒(ほとんどは家で寝ていれば良い)
- 若い人の発熱(家で寝とけ)
- 若い女性の過換気症候群(病院でもすること何もない)
そんな中でも特に印象に残っている重症の一人目は吐血、貧血でした。
一人目の重症患者
Hb 4.5g/dl. 正に重度貧血。明らかに眼瞼が白い。
血圧も下がっている。脈が早い。
明らかに出血性ショックが疑われる状況でした。
診察して、身体所見を自分でとるのは非常に勉強になります。
一刻も早く輸血を開始しないといけない、ということで赤血球を走って自分で取りに行ったことを覚えています。
重症患者二人目
診断は緊張性気胸でした。
明らかに呼吸状態がおかしい。
なんだろう?と思っていたらレントゲンですぐに診断がつきました。
朝方だったのでたまたま朝早くに出勤していた呼吸器外科医に連絡がつきました。
というよりは、いつも呼吸器外科医がその時間には出勤していることを一緒に担当していた若手の常勤医が知っていたため、連絡を取りました。
すぐに駆けつけて、手際よくトロッカーを挿入して、そのまま患者を連れて行きました。
今思うと、手際が良すぎて感動、というよりはあっけない気がしました。
手技の手際がいいというのは、感動を与えるとかよりも、あっけないぐらいささっと終わらすのが理想的だと思います。
緊張性気胸は胸腔トロッカーさえ挿入するとすぐに呼吸が落ち着きます。
あれほど息苦しそうにしていたのが嘘みたいに落ち着くので、素晴らしい手技だなと思いました。
初当直はほとんど眠ることも出来ず、それでもすがすがしいような、達成感のある、充実した気持ちで終了しました。
今後当直は毎回こんな感じか、と思って気の引き締まる思いでした。